大阪地方裁判所 昭和41年(行ウ)82号 判決 1967年3月14日
原告 北側栄太郎 外二名
被告 大阪法務局長
訴訟代理人 伴喬之輔 外一名
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
原告らは、「被告が別紙目録記載の者ら(以下原告ら一二名という。)による大阪法務局堺支局供託官の供託受理処分に対する審査請求につき昭和四一年八月二三日付でなした裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。
一、堺都市計画金岡新住宅市街地開発事業の起業者である大阪府知事は、大阪府収用委員会の昭和四一年六月七日付裁決により事業用地として、原告ら一二名所有の堺市新金岡町三丁一二八〇番地他二〇数筆の土地を収用し、同年七月五日土地収用法九五条二項三号により大阪法務局堺支局に対し収用による補償金につき原告ら一二名を還付請求権者として供託申請をしたところ、同支局供託官は右申請を受理した。
二、原告ら一二名は同年七月一二日右供託受理処分を不当として、同支局に同月一一日付審査請求書を提出して、被告に対し右供託受理処分につき審査請求をなしたところ、同支局供託官は同月二八日意見を附し審査請求書を被告に送付し、被告は同年八月二三日右審査請求を棄却する旨の裁決(以下本件裁決という。)
をし、同裁決は同月二五日原告ら一二名に送達された。
三、しかしながら、本件裁決は以下記載の事由により違法である。
(一) 供託官は供託の原因たる事実の存否を実質的に審査したうえで、供託申請を受理すべきか否かを決定すべきであるのに、右支局供託官はかかる審査をしないで漫然と前記供託申請を受理した。
そして、被告は供託官は供託申請がなされた場合、供託書、供託通知書、同添付書類により当該供託申請が適式な申請であるか否かを形式的に審査すれば足りるのであつて、実質的審査をすることを要しないものと判断して、原告ら一二名の審査請求を棄却する旨の裁決をしたが、これは供託法規の解釈を誤つた違法な裁決である(なお、原告らは被告自身の右のように誤つた判断を理由として、本件裁決の坂消しを求めているのであつて、供託官の供託受理処分の違法を理由として本件裁決の取消しを求めているのではない)。
(二) 供託法一条の五、二項には供託官は審査請求を理由がないと認めるときは、意見を附し審査請求書の提出があつた日から五日以内にこれを監督法務局又は地方法務局の長に送付することを要する、と規定されているのに、前記支局供託官は右規定に違反し、原告ら一二名の審査請求書の提出があつた同年七月一二日から五日を経過した後である同月二八日に意見書を附し、審査請求書を被告に送付した。
したがつて、被告は同支局供託官の供託受理処分の当否を判断するまでもなく、意見書を却下し、供託官に相当の処分を命ずべきであるのに、原告ら一二名の審査請求を棄却する旨の裁決をしたのは違法である。
四、よつて、原告ら一二名は原告両名を当事者に選定したうえ、本件裁決の取消しを求めるため本訴に及んだ。
被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
一、請求原因第一、二項の事実は認める。
二、同第三項(一)の主張は争う。
同項(一)の違法事由は、大阪法務局堺支局供託官の供託受理処分に関する違法事由であり、本件裁決固有の瑕疵ではないから、かかる事由を理由として本件裁決の取消しを求めることはできない(行政事件訴訟法一〇条二項)。
三、同項(二)[のうち、審査請求書送付の日及び右送付が供託法一条の五、二項に違反していることは認めるが、その余は争う。
右規定は訓示規定であつて、右規定に違反し、審査請求書の送付が多少遅れたからといつて裁決を取消すべき手続上の瑕疵が生ずるものではない。
四、なお、供託法一条の三による審査請求は、供託所に供託申請をした者が却下された場合にかぎつてすることができるのであつて、還付請求権者(被供託者)である原告ら一二名は審査請求をすることができないものといわねばならない。
証拠として、原告らは甲第一、二号証を提出し、被告指定代理人は甲号各証の成立を認めた。
理由
一、請求原因第一、二項の事実はすべて当事者間に争いがな.い。
二、そこで、本件裁決に原告ら主張の違法があるかどうかを検討する。
(一) 前掲三、(一)の事由について
行政事件訴訟法一〇条二項は、審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えにおいては、原処分の違法を理由として取消しを求めることができない旨を規定しているが、これは原処分の違法は処分の取消しの訴えにおいてのみ主張することとし(いわゆる原処分中心主義)、原処分を正当として審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えにおいては、裁決機関の構成やその手続における違法等裁決固有の違法を主張するは格別、原処分の違法を理由としては取消しを求めることができないとするものである。
ところで、前掲三、(一)の事由は、大阪法務局堺支局供託官の供託受理処分な正当として維持し、原告ら一二名の原処分に対する審査請求を棄却した本件裁決には、被告が供託法規の解釈を誤つて、供託官は形式的審査権を有するにすぎず実質的審査権を有しないものとした違法がある、というのであるが、このように供託官が実質的審査をせずにした原処分を維持し供託官に実質的審査権がないことを被告が肯定したことを違法であると主張して裁決の取消しを求めるのは、供託官が実質的審査をしなかつた当該原処分自体がそのことの故に違法であるとして裁決の取消しを求めるのはほかならないのであつて原処分自体の取消を求めること(行訴法一九条一項一三条四号参照)が適切肝要である。右事由は前記規定にいう原処分の違法であり、本件裁決に固有の違法ではないから、これを理由としては本件裁決の、取消しを求めることはできないものというべきである。
(二) 前掲三、(二)の事由について
大阪法務局堺支局供託官が供託法一条の五、二項に違反して審査請求書提出の日から五日を経過した後に審査請求書を被告に送付したこ之は当事者間に争いがない。
原告らは、審査請求需の送付が右規定に違反して遅延したから、被告は前記供託官の意見書を却下し、供託官に相当の処分を命ずべきであつたと主張するが、供託法は審査請求をうけた法務局又は地方法務局の長は審査請求を理由があると認めるときは供託官に相当の処分を命ずることを要する旨を規定しているのみであつて(一条の六)、審査請求の理由の当否と関係のない審査請求書送付の遅延を理由として供託官の意見書を却下し、供託官に相当の処分を命ずべきものと解すべき根拠は全くない。原告らの前記主張は独自の見解であつて採用できない。
そして、同法一条の五の規定は、供託官の処分を不当とする者から供託所に審査請求書を提出して監督法務局又は地方法務局の長に対し審査請求がなされた場合に供託宮に請求の理由の有無につきすみやかに判断させ、請求を理由があると認めるときは、処分を変更して、その旨を審査請求人に通知させ、請求を理由がないと認めるときは、審査請求書に自己の意見を附したうえ、審査請求書の日から五日以内に、これを監督法務局長又は地方法務局長に送付させることとし、もつてできるだけ迅速に審査請求について決定をさせようとする趣旨の訓示規定と解するのを相当とする。
したがつて、右規定に違反して審査請求書の送付が遅延したからといつて、裁決を取消すべき手続上の瑕疵となるものではない。
よつて、前掲三、(二)の事由は採用しない。
(三) なお、もし供託官の前示受理処分が取消されたときは結局大阪府収用委員会の裁決は、その効力を失うに至る(土地収用法一〇〇条)ものであるから、原告らは右受理処分に対し審査請求をする適格があると解するのが相当である。
三、よつて、原告らの本訴請求は失当であるから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山内敏彦 高橋欣一 高升五十雄)